クリムド・リアという世界は、ジョージ・オーウェルの小説『１９８４年』や映画『リベリオン』の世界に似ている。すなわち、一切の娯楽や個人的感情を認めず、国民はひたすら戦争に全力を注ぐという世界だ。『１９８４年』ではビッグブラザー、『リベリオン』ではファーザーと呼ばれる独裁者が支配しているが、その正体はわからない。クリムド・リアでは皇帝が支配しているが、現皇帝リグ＝カラカ＝ド＝グランデにはあまり高い権限はなく、影の権力者によって神輿扱いされているようだ。その権力者こそが、元老院議員の中の有力者（議長とは明記されていない）である賢者ファルダルである。『リベリオン』では主人公プレストンの上司デュポントがファーザーの中の人だったが、立場的には彼に近いだろうか。表向きには、ファルダルはあくまで一議員のようだから。
紹介文にあるメッセージが示すように、ファルダルの人柄は極めて俗悪、非情。ライネル＝グ＝ルトゥールを機械人形に変えて操るなど、残虐でもある。全クリムド・リアを自分の道具に変え、聖域の力を狙っている。このことから、聖域を敵視するカエサル、同じく聖域の力を求めるニーベルング家のゴットフリート＝ニーベルングなどと対立する可能性もありそうだ。その正体は人間ではなく怨霊とも記述されているが、さらにいえば、一人の人間の怨念だけでなく、聖域に流れ込んだ無数の悪意や欲望の集合体という説も考えられる。その場合存在としては、カエサルに近いことになる。
ファルダルは民を執拗に戦に狩り出そうとしているが、一方でファルダル自身が他人を働かせて自分は酒池肉林をむさぼっているとはあまり想像できない。思うに、ファルダル自身もまた、追い立てられる奴隷と化しているのではないだろうか。極度に暴走した欲望は、その持ち主自身を食らい尽くす。皮肉にも、他者を機械扱いしているファルダル自身が機械人形と化している。こうして見ると、欲望とはなんぞや、権力者とはなんぞやと考えさせられる。
現状、ファルダルのデータは明かされていないようだが、存在から考えておそらく追い詰められれば真ベリアルのようなおぞましい化け物になって襲ってくるのではないかと想像できる。実際、その精神のありようは、まさに人の命や心をむさぼる化け物というのがふさわしい存在だろうから。その意味では、単に権力亡者であるのみならず、クリムド・リアという世界のガンそのものといえるかもしれない。クリムド・リアという世界は、有野夢子という一人の能力者の少女の見る夢だという説もあるが、だとすれば、ファルダルとは夢子の心の奥底に潜む「あしきゆめ」でありガン細胞であるのかもしれない。