『とある魔術の禁書目録』の御坂美琴は、電撃文庫の代表格のヒロインとまでいわれている。実際、とても魅力的なキャラだと思うのだが、『超電磁砲』、ことにアニメ版の終盤での活躍を見てからだと、本編の美琴に不満を感じざるを得ない。活力に満ちた、強気で積極的な女の子なだけに、男の子のことで頭がいっぱいになっているのが残念だ。それが、電撃文庫のヒロインだとなおのことだ。ヒロインというのは、どんなに活躍しても最終的には、男の子のあとを追うだけが目的になってしまうのだろうかと思う。
なにも恋愛がいけないというのではない。ただ、理想的な主人公とヒロインの関係は、お互いがひかれ合い、さらにそれぞれの人生の中の一つの事件として恋愛が起こるものではないかと思う。
相手の上条当麻の方は、今のところ誰かに恋するという雰囲気ではない。上条に限らず、ラノベの主人公は、自分から女の子を好きになることが少ない気がする。ヒロインたちが主人公を好きになることはあっても、その逆がない。だから『ソードアートオンライン』のキリトなどは、ちゃんと自分がアスナを好きになっているところに好感がもてるのだが。男女は、対等で自立した関係であるべきだ。上条はインデックスや美琴に、ましてや姫神や五和といったサブヒロインたちに恋したことはあるだろうか。以前、とある友人から「上条さんは年上巨乳女性が好きだから年下は興味ないんですよ」というもっともな意見を聞いたが、だとするとそれこそ、インデックスや美琴の立場がないではないか。
結局、美琴は妹達編で一方通行相手に、絶対に超えられない壁に遭遇し、それを上条に破ってもらったことで、希望を上条に丸投げしてしまったといえる。一度希望を全て失い、それを男の子に、つまり他人に取り戻してもらったことで、主体性を他人に預けてしまったのだ。これを批判するのは、そもそも『禁書』が代表する、恋愛至上主義のラノベのあり方に不満を持つことだともいえる。『禁書』の世界観やアイデアは魅力的なだけに、テーマが狭い範囲でおさまっているのが残念だ。
だからこそ、外伝の『超電磁砲』では、本編でのその不満が解消されているのだと思う。妹達編は、本編３巻の前のエピソードだ。だからこそ、せっかくの美琴という魅力的な主人公を、超えられない壁で駄目にしてしまったのが惜しい。というより、本編では上条にツンデレするだけだった美琴という女の子を、魅力ある主人公にした時点で、本編の恋愛キャラとのズレが生じている。
最後に、『禁書目録』でも『超電磁砲』でも、読んでいると作者の鎌池氏が、美琴をどう扱いたいのかが今ひとつ見えてこない。いきあたりばったりでキャラを扱っているのではないか、という疑いがある。美琴には電撃文庫のヒロインと呼ばれるだけの器量があるだけに、作者にそう扱われるのは残念だ。最初から魅力のない作品なら論じるにも及ばないのだが、魅力的なキャラがいるだけに、なんとかしてほしいものだと思わざるをえない。